【国民生活センター編『戦後消費者運動史』より奥むめお・主婦連関係の情報】その2
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『戦後消費者運動史』P87~
4 主婦連運動の展開-商品テストと表示問題-
(1)主婦会館の建設と日用品試験室の動向

主婦連が東京四ッ谷に主婦会館を建設したのは、56年5月のことである。主婦会館は、「暮らしを明るく、楽しくするために、生産と消費の合理化のために、そして、婦人の手によって建設された新生活運動のモデルセンター」であり、「主婦の城」として主婦連全体の期待と命運をかけてスタートした。主婦会館は、敷地約181坪、地上5階、地下1階、総建坪716坪の満洒なビルである。1階にはホール、展示室、ロビー、2階には料理実習室と教室、会議室等のほか事務室が設けられ、4・5階には結婚式場と宿泊室も備えられていた。
主婦会館建設の夢は、すでに主婦連結成直後の48年当時から芽生えていたが、それは戦前の「働く婦人の家」建設当時から引き続く奥むめお自身の夢でもあったようだ。婦人会館の落成にあたって全地婦連会長山高しげりは、「婦人会館の建設こそは、あなた(奥)の宿題の実現であったように思われます」と祝福している。
当時各地で婦人会館の建設がラッシュを迎えていたが、主婦会館がそれらと異なるのは何といっても日用品試験室の存在であったろう。奥の持論が、商品テストによる科学的裏付けのある運動であることはすでに述べたとおりであるが、アメリカのCU(コンシューマーズ・ユニオン)やヨーロッパの生協等の視察を通してその意向をより深めたようである。とりわけスウェーデンの家庭生活研究所のテストの状況には教えられるものが多かったようだ。主婦会館は、このような奥の考え方を反映したものであった。それまで、流し台一つの試験室しかなく、母校の大学の実験室などを転々としながら商品テストを実施していた高田ユリは、後にこの時の気持ちを「天にも昇るような気っていうか、本当に嬉しかった。もうこれであちこちうろうろして試験室を探さなくてすむし、落ちついてテストができますから」と述懐している。ともかく、日用品試験室には一応の試験器具も揃い、消費者団体が持つ試験施設としては画期的なものであった。
日用品試験室が新たな施設を使って本格的に行ったテストの第1号はジュースの分析だった。57年7月、「全糖」と表示のあるジュースが本当に全額かどうか調べてほしいとの問合せがあり、関東地方の清涼飲料会社58社のジュース類をテストしたところ、全糖の表示があるものの40%にサッカリンやズルチンが混入していた。主婦連は、その結果を受けて厚生省および業者代表と会合を持った。業者代表は陳謝したが、厚生省側から「58年1月、省令を改正し、添加物のうち保存料、殺菌料の一部のほかは明示しなくてよいことになるから、ジュースの表示違反は取り締まってもしかたがない」との発言があった。
主婦連は、「そのような無責任な対応は業者の違反を野放しにするばかりか、買物の目安たるべき表示(合成着色料、人工甘味料等)まで削減することはとうてい納得できない。とくにズルチンなどは慢性毒性(中毒)の恐れも否定できない以上、表示規制緩和は食品衛生行政の逆行である」としてその対抗手段として、「うそつき表示の食品ボイコット」を申し合わせた。
主婦連が再度厚生省に申し入れると、「主婦連の要望を入れて表示は従来通りにする」と表示規制緩和は撤回された。主婦連が本格的ジュース裁判に取り組むのは60年代末のことだが、このジュースの表示問題はいわばその前哨戦でもあったのである。
(2)ニセ牛缶事件
主婦連は、60年度の総会で、日用品試験室の拡充強化を図るため苦情処理の窓口を開くことを決め、同年9月、第1回「消費者のための苦情処理の窓口」の公開研究のテーマに缶詰を取り上げることにした。これは、牛の絵のついた「ロース肉大和煮」の缶詰の中身が実は鯨肉であったという東京都衛生局の摘発が社会問題化していたことが背景にある。
発端は、「缶詰にハエが入っていたので調べてほしい」という消費者の訴えであったというが、都衛生局が調査したところ、「ロース肉大和煮」と表示されているのに、実際はすべて鯨肉だった。その後の調査でも、「牛缶」や「コンビーフ」であっても、安い缶詰はそのほとんどが馬肉か鯨肉であり、しかも「こうした慣行が業界ではなかば常識化している」うえ、「この『にせ牛缶』を取り締まる法律がない」ということから主婦のあいだに大きな波紋を呼んだ。
主婦連では、60年9月10日、缶詰協会のほか、厚生・農林・通産各省、公正取引委員会、都庁等の関係者を招いて「標示と中味の違うウソつきカン詰めを追放するための対策懇談会」を開催、業者および関係官庁の対応を追及した。しかし、現行の食品衛生法では、たとえ表示に嘘があっても、中毒を起こすなどの実害がなければ取り締まれないなどの問題点が明らかになったため、9月16日、厚生省、農林省、公正取引委員会、日本缶詰協会に対して、法の改正、取締りの強化、畜産缶詰の規格の作成、業界の自粛などを要望した。消費者の不安・怒りの声は大きく、都衛生局にも連日問合せの電話が相次いだ。デパートなどでも独自の検査をする店が現れる一方、牛缶の売れ行きが止まるという状況となった。
こうした社会情勢を背景とした運動の展開を前に、関係機関もそれぞれ改善策の検討に入り、以下の3つの成果が獲得できた。まず農林省は、農林物資規格法の缶詰に関する政令を一部改正し、「畜肉かん詰3品目と鯨肉かん詰3品目」に日本農林規格(JAS)を適用することになった。厚生省は、食品衛生法施行規制(省令)を改正、缶詰の内容を正確に表示させることにした。また、公正取引委員会でも、缶詰の内容をごまかすような表示や広告をすることを独占禁止法に基づいて「不公正な取引方法」として特に指定し、消費者の利益を守るため新たに「不当景品類及び不当表示防止法(景表法)」の制定に踏み切った。
主婦連は、一連の対応に対して、「かねての主張からすれば、泥棒をつかまえて縄をなうようなもので、遅すぎたきらいはある」ものの、「私たち消費者の要望にこたえて消費者行政の窓が少しずつ開いてきた」と、評価している。ウソつき缶詰事件を契機として展開した表示問題がその後の消費者運動に投げかけた影響は測りしれないものがあった。
この運動は、科学の裏付けのある消費者運動のきっかけとなったばかりでなく、現行の法制度を消費者の科学的な目を通して見直すきっかけとなり、その後の法制度の改正や整備を伴う消費者運動への足がかりとなったのである。
以上
(Mによる注記)
1)いずれも半沢広志氏の執筆分からのご紹介。すいれん舎という出版社が、「日本消費者問題基礎資料集成」というシリーズ出版を続けており、2008年度に第9シリーズとして全国消費者団体連絡会資料を復刻出版した際に、日本生協連資料室にある全国消団連の資料が活用された。2009年度の第10シリーズは全国消費者団体連絡会資料を日本生協連が発行していた時期のものを復刻出版した際も同様。いずれも半沢広志氏が解題を担当されていて、深いご縁を感じた次第である。
版元ドットコムの「すいれん舎」のコーナーはこちら

2)商品テストの先がけは主婦連さんだったのかとあらためて痛感した。
消費者の立場にたつ本格的な商品テストの施設が国民生活センターにあり、製品ごとの比較情報は国民に公開されている。また、日本生協連においても生協会館の中に商品試験室を設置したことから始まり、商品検査センターの大宮開設、蕨市への移転、増床と立派な施設と多くのスタッフでさまざまな検査ができるようになっている。
自分が所属する組織の外にも目を向けて先人たちが道を切り拓いてきたその精神に学ぶことが大事だと思う。

【2010/07/08 23:44】 | アーカイブ
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