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【徳永直の小説「太陽のない街」の消費組合活動への言及部分】その2
その1はこちら
2)422~423 頁より
制服巡査と守衛の五、六人が、厳重に固めている西口の会社の通用門を、先刻の「関東消費組合連盟」のトラックが、臆面もなく、酔っ払った山車のように駛り込んで来た。
彼らの消費組合小石川共働社は、会社の構内にあったのだ。会社の事務所と一丁ばかり距てて、紙倉庫に繋がって、彼らの小石川共働社は三本の赤旗にPを浮かせた労働組合旗と、COの字模様に、赤い星を染めた消費組合旗とを交叉させて、息塞るような対峙をもう六十日間も続けて来ていたのだ。
――畜生、だいぶ米を積んでやがる――。
請願巡査詰所の中から出て来た、黒い背広のノッポの男が、トラックを見送って呟いたこの男は以前富坂署に勤務していたことのある警部補上りで、組合(争議団)の幹部らのツラを知ってる等の理由から、現在会社の庶務課長に出世している男であった。
――いかん!
彼は、一つ首を振ってから、大股に事務所の方へ歩いて行った。――合法ってやつが、奴らをますます増長させとる!
合法ってものは、いかなる場合に適応さすべきかを、この男はよく知っていた――。東京府庁認可の購買組合ってえのが一体なんだ!
共働社の表戸が開いて、十人あまりの従業員がトラックの周囲を護るように立ち並んだ。彼らは各自に薪を一本ずつ小脇に挟んでから、馴れた調子で米袋を順送りに搬び込んだ――ホイ、来た、ホイ――。
しかし、共働社の内部は、夜逃げした株屋の家みたいにガランとしていた。米倉庫も、薪炭置場も鼠の出入口までが、すっかり剥き出しになって、そこから冷たい風が破損した水道栓みたいに、シュッ、シュッと音を立てて吹き込んでいた。
六十余日の間に、彼ら争議団員たちが、かつて血をもって積み立てた組合財産も、ほとんど最後の米一粒、木炭の一破片まで焚き尽した。それに手酷くこたえたのは、従来まで取引していた連盟以外の二、三の問屋筋が、争議が激化して来るとともに、バッタリその供給を絶ったことだ。会社の干渉がそうさせたことはむろんだが、覚悟はしていてもあまりにハッキリし過ぎていた。
――だからよ。
搬び終って、指先の除れた軍隊手袋を脱ぎながら、髭ッ面の連盟常務員の広岡が云った。
――だから、一にも二も、吾々の連盟を大きくすることが肝要だってんだ。俺はこの争議の経験からしても、無産階級的な消費組合は、絶対単独仕入を禁止することを主張するんだ。
この荷馬車挽きみたいな五十男は、石のように頑丈で牛よりも忍耐づよかった。大正9年ごろから消費組合運動に入って、幾つもの労働争議と生死をともにした。弾圧を喰って放逐されると彼は郷里に帰って、老母とともに小作をした。そしてまだ余燼がさめきらぬうちに、また東京へ飛び出して来ては、牛のように忍耐づよく米袋を運んだのだ。
――俺たちは、俺たち自身を強くしなくちゃいけねえ、まず第一に、農民の諸君と握手しなくちゃいけねぇ、輸送機関の、汽車も汽船も、持たなくちゃなんねえ、都会では、まず強大な配給機関を確立しなくちゃなんねえ、各種の鉄工業から、一切合財の生産工場も、持つようにならなくちゃいけねえ――。
――分った、分ったよ――共働社常務員の伊藤が、手をあげて遮るように云った。――お前に、談じ込まれたら日が暮れちゃうわ――。
傍へ寄って来た従業員たちがふき出した。事実、彼の執拗さにかかっては、孤児院の押売りだって逃げ出すに違いなかった。
――お前の談義聞いてたら、争議団の連中は涸干しになっちまう。
今度は広岡が真ッ先に、ケロリとした調子で、その髭ッ面に固い皺を波打たせながら、麦の穂のように健康な笑い声を立てた。
この男には憂鬱がなかった。彼には「平時」がないように、いかなる場合も、健康で悠々とした「非常時」であった。
――おい伊藤君、広岡君――。
そのとき奥の当直室で、萩村の呼ぶ声がした。彼は昨夜班長会議の帰途からここへ来て寝ていたのだ。無理算段したり、連盟の同志的寄附行為によって、今日の兵糧も来たものの、従来のように一般に配給することは不可能であった。やむを得ず、班長会議は、もっとも危急を愬えている部分から、調査の上配給することに決議したのであった。
萩村は、班長会議議長として、各班から提出された調査係の伝票を集めて米袋の数と照らし合わしていたのだ。
………
以上

ネット検索で「日本語練習中」さんのブログの「橋浦泰雄と関敬吾の接点・橋浦と徳永直の接点」という記事を見つけたのでリンクしてご紹介しておく。
... 18日

【2010/06/14 22:34】 | アーカイブ
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