<Mより発信>
『賀川豊彦全集』の第11巻に添付された『月報』9.掲載の文章のうち、まずは黒川泰一氏の分からご紹介する。
【物心両面の支え】全国共済農業協同組合連合会参事 黒川 泰一
関東大震災の直後、賀川先生が本所区松倉町にテントを張られ、罹災市民の救援に奔走されると同時に、連日連夜、市内の教会で説教をつづけられたとき、既に受洗者であった私も、毎晩、先生の後を追って説教を聴きまわった一人であった。当時商業関係にいた青年、私の煩悶時代でもあったので、間もなく松倉町に先生を訪ねて、私の悩みをきいて頂いた。先生は私の相談をきかれるや即座に、「君は協同組合運動に従事するのが一番よろしい」といわれた。私も即座に「是非やらせて下さい」と答えた。「それじゃ木立君にいっておくから、同君の指導をうけなさい」ということで、それ以来、今日までその道に入って40年を経た。
したがって、私の先生についての思い出は「賀川先生と協同組合運動」に関係したことだけでも、尽きないほどありすぎる。
先生の事業は、いづれの方面でも他人が手をつけない、先駆者的であり、開拓者的なものばかりであるが、協同組合運動もその例外ではなかった。消費組合然り、質庫信用組合然り、医療組合、保険(共済)協同組合等々みなそうである。そしてこれらは日本のみならず、国際的関係を含めての協同組合運動に大きな影響を与えているものであるが、残念なことには、既刊の賀川先生の伝記には、その記録も評価も不充分であり、軽く扱われていることである。これは申訳ないいい方だが木立さんあたりが中心になって、ぜひまとめていただきたいところである。
私が賀川先生の指導下にあって、直接関係したものについて特に印象の深い先生の思い出では、まづ医療組合の設立運動である。
それは昭和6年1月から始まった。当時は農村恐慌の真最中で、農民は窮乏のどん底にあって蟻地獄のように医療地獄に落ち込んでいた。政府はそんなことには見向きもしないで、ただ経済更生運動の掛声をするばかりだった。医療地獄から農民が披け出さぬ限り経済更生も空念仏に終る。そして農民自身の協同の力による外に医療地獄から抜け出すことはできない、というのが先生のお考えだった。しかし、これを一挙に全国の農村に普及するためには、最も目立つ場所にモデルを作ることが早道と考えられた結果、その条件に合う場所として東京を選ばれた。それで始められたのが東京医療利用組合の設立運動であった。しかしこれには医師会という開業医の団体が、全国の勢力を結集して猛烈な政治的圧力をかけての大反対運動を起してきた。そのため設立認可は一時は絶望視されたが、翌7年に突発した五・一五事件の余波が幸いして一年がかりで滑り込み認可となった。そして、この間の医師会の全国的反対運動が却って刺戟となって、その後全国農村に医療組合設立運動が燎原の火の勢いで拡がった。賀川先生の狙いは不思議にも短日月で結実していった。
その後昭和9年には当時の内務省社会局から主として農村を対象とした国民健康保険組合制度要綱試案が賀川先生からの示唆を得た馬場蔵相の発意をもとに発表されたが、この時も先生は逸早くその促進運動と既存の協同組合たる産業組合を基礎に実施すべきだとの主張をつづけ、ついに政府当局と産業組合を動かし、その方向に進められた。これに対しても全国の医師会の猛反対運動が起され、あわやひねり潰されようとしたが、賀川先生を先頭に立てた全国産業組合の支持運動が強力に展開され、昭和12年国民健康保険組合法が成立し、全国市町村の三分の一は産業組合の事業として実施された。この間の先生の努力と産業組合の熱意と協力は当局の作った国民健康保険史には意識してか無意識なのかは知らぬが、ほとんど記録されていない。
日本の協同組合運動の質的変革をもたらすものとしての組合保険(共済)は、今や大きな驚異的発展を遂げつつあるが、これまた賀川先生が昭和10年以来、協同組合保険の必要性と実施をつよく主張しつづけ、その指導下に立ち上った産業組合の動きは、戦前には遂に政治的圧力のため一旦は潰されてしまったが、敗戦を機として遂にその実現を見ることができ、かつ予想以上の発展をつづけているところである。いつも思うことは、消費組合にしても、医療組合にしても、また戦後逸早く、戦時中禁圧されていた協同組合運動の再建のため、賀川先生を会長に発足した日本協同組合同盟(現在の日本生協連の前身)にしても、賀川先生からバク大な私財の援助を受け、物心両面に大きな御負担をかけながら、その償いをすることもできないまま過ぎていることである。
以上

【2010/10/14 12:59】 | アーカイブ
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